福島民報 2014年 3月22日(土)  

東日本大震災

【いわき巨大余震】本震後も地鳴り、揺れ 住民情報生かせず


 いわき市を襲った4月11日の震度6弱の直下型余震で、市内田人町石住で大規模な土砂崩れが発生し、4人の命を奪った。断層が現れた市内西部の山間地では、半年が経過した今なお細かな揺れや地鳴りが収まる気配がない。しかし、巨大余震の予兆は東日本大震災の3月11日以降からあった。余震や土砂崩れは予測できなかったのか、防災体制は十分だったのか。住民や関係機関の証言と専門家の分析を基に検証する。

予兆

 揺れと地鳴りは3月11日の本震以降に多くの住民が感じていた。いわき市田人町の石住区長大竹保男さん(62)は「恐怖を感じるほどではなかったが小さな地鳴りのような音があった」と証言する。

 市田人支所には4月11日以前に住民から地鳴りなどの相談があり、不安があれば支所などに避難するよう呼び掛けていた。しかし、職員の1人は「当時は原発事故の影響で混乱していた。原因を探るまでは手が回らなかった」と明かす。

 

人が犠牲になったいわき市田人町石住字貝屋の土砂崩れ現場。半年が過ぎてもがれきがそのままになっている=14日

爆発音のような地鳴りや突き上げるような揺れが続いている」。田人町の西に隣接する古殿町役場にも住民から情報が寄せられていた。町は福島地方気象台に連絡し、「いわき市西部の山間地で直下型地震が頻発している」と回答を受けた。町は問い合わせがあった住民には事実を知らせたが、防災無線などで積極的には広報しなかった。町職員は「大地震を予知できない以上、不安をあおるだけ」と判断していた。

通報1時間後

 4月11日午後5時16分、いわき市田人町石住字貝屋の民家を突き上げるような激しい揺れが襲った。「おやじ、逃げろ!」。夕食の準備をしていた鈴木景良さん(75)は、裏山の異変を察知した長男(47)の叫び声で駆け出した。「地震の直後、自宅脇の山の斜面が波打って落ちてきた。まさに山津波だった」。貝屋地区には、住民に土砂崩れなどを知らせるサイレンなどの装置はなかった。大量の土砂は住宅など3棟を押し流していた。

 そのころ、現場から約300メートル西にある石住小・中では、永山美雄校長(53)の指示で教員が手分けして全校児童生徒合わせて7人の安否を確認に走り回っていた。電話が通じないため各家庭を訪れた。雨が降りしきる中、教員が3年の女子生徒の家に駆け付けると、3軒が数十メートル谷側に移動し、めちゃくちゃに壊れていた。学校にあったスコップやのこぎりを手に救助を始めた。

 いわき市消防本部に土砂崩れの一報が入ったのは午後6時19分。地震発生から約1時間後だった。そのころ、市内は大混乱に陥っており、消防にはけが人の搬送依頼が相次いでいた。さらに、市街地から貝屋地区へ向かう県道いわき石川線は土砂崩れで通行不能に。同本部は午後6時21分、県広域消防相互応援協定に基づき、隣接する須賀川地方広域消防本部に出動を要請した。

 午後6時46分、石川消防署古殿分署員7人が現場に着いた。午後7時に到着した石川消防署員5人と合わせ12人が救助の第一隊となった。

 救助は命懸けだった。余震と地鳴りが続き二次災害の恐れがあったからだ。倒壊した住宅に最初に入った男性署員(42)は「余震のたびに崩れた家が揺れた。助かった女の子が声を出し続けてくれたので活動できた」と振り返る。

土砂崩れ、深層崩壊か 「予知困難」と専門家

 いわき市の断層はこれまで活動度が低いと考えられ、専門家は巨大余震を予知するのが難しかったと指摘する。さらに、4人が犠牲となった貝屋、才鉢両地区の土砂崩れは、深い層から一気に崩れた「深層崩壊」とみられる。一方、県道いわき石川線の通行止めが約5カ月間続き、沿線住民からは迂回(うかい)路整備を求める声が上がっている。

今後も発生か

 「今回動いた断層は活動度が低いと考えられていた。断層の割れ方もまれ。大地震を予想するのは難しかった」。4月以降にいわき市の現地を調査した帝京平成大の佐藤剛講師(35)=いわき市出身・地形学=は地震予知の限界を口にする。今後も余震は数年間ぐらいの長期にわたり発生するとの見解を示す。

 気象庁は大きな被害が想定される東海地震の予知を目指し、地殻変動を観測して前兆を捉えようとしている。だが、「予知できる可能性がある」という表現にとどめている。前兆がわずかであったり、前兆となる事象が急激に進んだ場合は、情報を発表できないまま大地震発生を迎えるからだ。気象庁地震予知情報課は「予知できる、できないにかかわらず、家具の固定など住民自らが備えをすることが大切」と警鐘を鳴らす。

 一方、貝屋、才鉢両地区の土砂崩れのメカニズムも分かってきた。4月の地震直後から数度にわたって現場を調査した日本地すべり学会理事の八木浩司山形大教授(54)=変動地形学=は、もともとゆっくりと谷底へ向かっていた土砂の流れが地震の揺れで加速、深い層から一気に崩れた「深層崩壊」とみる。

 「地滑りは地割れなどが徐々に広がり起きる場合がある。急な斜面に亀裂が入っていないかなど地域の人と絶えず地形について情報交換し、予兆と思える現象があれば行政や専門家に連絡してほしい」と強調する。

迂回路の整備を

 県道いわき石川線はいわき市の渡辺町上釜戸と田人町石住字才鉢が土砂崩れで埋まった。上釜戸は8月末、才鉢は9月20日に開通したが、物流への影響は深刻だった。迂回路となるべき349号国道は鮫川村赤坂東野字大竹で土砂が崩れ、今も通行止めが続いている。349号国道は古殿町山上などで大型車が通行不能な道幅となっており、いわき市から古殿町に向かうタンクローリーが49号国道から平田村や石川町経由で来ることもあった。古殿町でガソリンスタンドを営む芳賀一さん(51)は「大型車も通行できる迂回路を整備すべき」と訴える。

 県は県道いわき石川線で随時、道幅を太くする整備改良工事をしてきた。県道路計画課は、いわき石川線の復旧計画について「崩落現場を含めた未整備区間は、トンネル化も含め災害に強い道路とするよう検討している」としている。一方、349号国道は「6号国道や常磐自動車道が被災した際の迂回路となるよう計画的に整備している」とし、道幅の狭い場所の改良に向け調査・設計を進めている。

衛星携帯電話

 いわき市田人町の貝屋地区の土砂崩れ現場は消防の無線や地上電波の携帯電話では通話が困難な地域となっている。救助活動の際は衛星携帯電話が役立った。

 現場で使用したのは、古殿町が所有している衛星携帯電話だった。町は衛星携帯電話2台を常に使用できる状態にしている。貝屋地区の土砂崩れの一報がもたらされた際、町役場に詰めていた石川消防署古殿分署の高橋秀典分署長(60)が町に借用を依頼した。

 町は職員2人に衛星携帯電話1台を持たせ現場に向かわせ、現場で電話機を消防の救助隊に託した。救助隊は倒壊住宅から助け出した住民のけがの状態を消防本部に知らせることができ、本部が救急車に医師を乗せてより早くけが人に接することができた。高橋分署長は「衛星携帯電話を持っていたおかげで情報を伝えられた。今回のような震災の際は無線が使えない場合もあり、衛星携帯電話が重要になる」と話す。

※4・11巨大余震

 4月11日午後5時16分ごろ、いわき市の西南西30キロ付近を震源とする震度6弱の地震が発生した。市内田人町石住字貝屋では、山の斜面が高さ約250メートル、幅約100メートルにわたって崩落し、男性1人と女性2人の3人が死亡した。田人町石住字才鉢の県道いわき石川線では車で通行していた男性1人が土砂崩れに巻き込まれ亡くなった。

八木山形大教授に聞く 震災で誘発の活断層型地震

 福島民報社は、いわき市で現地調査をした八木浩司山形大教授(54)=変動地形学=に、4月11日の巨大余震の発生メカニズムなどを聞いた。八木教授は東日本大震災で誘発された活断層型地震としている。

 −地震の発生メカニズムは。

 「東日本大震災以降、東日本が東側に動いている。固い地盤の移動に軟らかい地盤がついていけず、地盤の境目のいわき市西部の山間部に隙間ができた。そこに日本列島の古傷である活断層があったため、活断層を使って地震が起きたといえる。3月の震災による地盤の割れ残りが起こしているのが余震だとすれば、4月の地震は震災で誘発されたものだ」

 −実際に割れた断層は。

 「井戸沢断層と湯ノ岳断層だ。(断層を両側に引っ張る力により起きる)正断層型の地震と考えられる。東日本が東に移動することで強い圧縮が起きているが、圧縮効果の中では通常は(断層を両側から押し込むことで起きる)逆断層型地震が発生する。圧縮された中で部分的に正断層型地震が起きることは想定されておらず、専門家は驚きの目で見ていると思う」

 −断層型の大地震発生が懸念される場所はあるのか。

 「何もないところに割れ目をつくるより、古傷である活断層を使って新たな動きをする可能性がある。例えば飯豊山地の東側や、(相双地方の山間地から宮城県亘理町付近に広がる)双葉断層などだ。微小地震が起きている場所は(大きな地震が)起きる可能性がある」

殿町が所有している衛星携帯電話。無線が通じにくい救助現場で役立った
現地調査をした八木浩司山形大教授(54)=変動地形学=

【いわき市山間部の断層図】★が震央、赤い線が今回出現した断層。黒い点線はこれまで存在するとみられていた断層=八木教授提供

(2011/10/16 13:02カテゴリー:3.11大震災・検証)