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5.唐山大地震の著者 銭鋼氏の困惑
なぜ北緯40度線上に大地震が多いのか?

 よく覚えているのだが、新彊・烏恰に地震が発生したというニュースを聞いたとき、私が最初に考えたのは、北緯三九・四度だ ! また四〇度線付近で地震が起こった ! ということだった。私は何回も地震学者たちから、北緯四〇度線はバミューダの魔の三角区域のように神秘で怪しげでそして恐怖に満ちた線だということを聞いていた。
 実際、北緯四〇度線とそれに近い緯度をもつ区域には、歴吏上有名な大地震が何回も発生している--。
  アメリカのサンフランシスコ大地震
  ポルトガルのリスボン大地震
  イタリアのポテンツァ南方地区の地震
  日本の十勝沖地震、
  中国の海城地震
  中国の唐山地震……。
 私がこの本を書いている時にも両足がちょうどこの「恐怖の線」の上に立っていることはかなり劇的と言えよう。北京、中国の地震関係者が防衛しようとしているこの中心区域も、ほかではなくこの四〇度線に位置している。これはいままでだれにも解釈できない謎であった。
 もちろん、これは数えきれない大地の謎の中のただ一つに過ぎない。自然科学という果てしない大海に向かって、われわれ人類のコロンブス船隊とマゼラン船隊はまだ出帆したばかりである。終着地に至るまでの航海はきわめて長いが、いつも昂然と前へ進んでいる船帆がわれわれには見えている。
 私は信じているマントル対流と地震の関係、地殻の不規則な運動や地軸・磁気軸の変動と地震の関係、天文学上の要素や太陽の黒点と地震の関係、幾千幾万の不思議な自然現象やまだ把握できていない物質運動の法則と地震災害の間にある何らかの関連……人類はこれらを最終的には明らかにできるに違いない。
 私はまた信じている。いつの目か人類は地震を予知できるばかりでなく、地震のエネルギーを逃してやることができるに違いない。アメリカのSF作家アシモフが予言したように、断層に沿ってボーリング孔を掘削し水を注入することにより、地殻内の一部を滑りやすくして小さな地震を誘発すれば、地下のエネルギーを放出して大地震の発生を防げるかもしれない。(確かに奇妙な発想ではあるが。)

[解説]
 唐山大地震の著者銭鋼氏が困惑しているように、中緯度帯に大地震が多いことはよく知っているのですが、その原因は誰にも分からない謎です。中緯度地帯は一日二回の潮汐現象(海水のみならず地球内部の溶融マグマにも等しく作用する起潮力は、地殻を押したり、へこませたりする)により、地殻は疲労破壊をする筈です。地球の中緯度帯は疲労破壊が起こりやすい場所、即ち大地震が起こりやすい場所なのでしょう。銭鋼氏も誘惑にかかりそうになっている、アシモフの地中注水構想は危険です。無知ほど怖いものはないという代表例みたいなものです。溶鉱炉に水を注いだらどうなるかを考えれば、当然分かることですが、地上の工場の中であってさえ、大爆発をするのです。
 大地震の制御は熱解離という化学反応を如何にしてコントロールするかと言う方向から見えてくるものと思います。はるか未来にある人類の夢でしょうが、少なくとも現在の地球科学の定説から脱出しないとその方向は見えてこないでしょう。        (石田)

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