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6.断層は地震の後に現れたという興味深い目撃談
 例へば、明治二十四年濃尾地震の時は岐阜の東北方面数粁のところに極めて鮮かな土地の段違ひ、すなはち断層が出現した。この断層は地震と殆ど同時に出現したのであるから、断層の成生が全く地震波を発生する本源であるかの如く考へられてしまつたのである。
 當時においても故大森博士はこの断層が殆ど瞬間的に発生したものではなくて、地震後極めて緩やかにズルズルと段違ひになつたといふ話を目撃者たる一農夫から聞いて來られ、著書の中にも載せてをられるが、博士もこの現象をやや不可解の事實として考へてをられたやうである。
 しかしこの断層の出現が極めて鮮かであつたことに幻惑されたためか、その後の博士の書かれたものには常に断層成生が地震を発生するかの如き説明を試みてをられたのである。
 此の如き状態の下に大正十二年まで過ぎ來つて遂に關東大地震が突發した。この時はかなりの地形変動すなはち相模、房州に亙たつて海岸の大隆起があつたが、大断層の出現は見つからなかった。

[解説]
石本巳四雄博士の記述の中にある、断層の出現を目撃した農夫の話です。「断層が動いて地震を起こす」という定説を否定する興味深い観察例です。断層は地震の後に、極めて緩やかにズルズルと段違いになった、という貴重な情報に何故目隠ししてしまうのでしょうか。現象を忠実に追いかけて、納得できる地震理論を作るのが地震学者の務めではないのでしょうか。
断層は地震の結果起こる大地の傷跡です。関東大震災では、断層が現れませんでしたが、そのことが水素を含む可燃ガスの噴出となって、悲惨な火災旋風を引き起こす原因となったと考えられます。
(石田)

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