新・地震学セミナーからの学び
59 CO2地下貯留プロジェクトと地震の因果関係
地震学者の島村英紀氏「人間が起こした地震」という記事の中で、液化炭酸ガスの地中貯留実験に関してその危険性を述べておられます。

しかし、定説と爆発説では危険度の認識がまったく異なりますので、その違いを指摘しておきたいと思います。まず、島村氏のコメントを抜粋して紹介しておきます。

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「人間が起した地震」(抜粋)

(前段略)
 米国コロラド州のデンバー市のすぐ北東で深い井戸を掘って、放射性の汚染水を捨てたことがある。米空軍が持つロッキー山脈兵器工場という軍需工場の廃液であった。それまでは地表にある貯水池に貯めて自然蒸発させていた。厄介ものの汚染水を処分するには自然蒸発よりはずっといい思いつきだと思って始めたのに違いない。井戸の深さは3670メートルもあった。大量の汚染水を捨てるために、圧力をかけて廃水を押し込み始めた。

 この廃液処理を始めたのは1962年3月のことだ。3月中に約16,000トンもの廃水が注入された。

 四月になって間もなく、意外なことが起きた。もともと1882年以来80年間も地震がまったくなかった場所なのに、地震が起きはじめたのだった。

 多くはマグニチュード4以下の小さな地震だったが、中にはマグニチュード5を超える結構な大きさの地震まで起きた。マグニチュード5といえば、松代での群発地震の最大の地震に近い大きさだ。もともと地震活動がごく低いところだから、生まれてから地震などは感じたこともない住民がびっくりするような地震であった。人々はこの工場での水の注入が地震を起こしていることに気づき、ちょっとした騒ぎになった。

 そこで、1963年9月いっぱいで、いったん廃棄を止めてみた。すると、10月からは地震は急減したのである。
 しかし、廃液処理という背に腹は替えられない。ちょうど1年後の1964年9月に注入を再開したところ、おさまっていた地震が、突然再発したのである。

 そればかりではなかった。水の注入量を増やせば地震が増え、減らせば地震が減ったのだ。1965年の4月から9月までは注入量を増やし、最高では月に3万トンといままでの最高に達したが、地震の数も月に約90回と、いままででいちばん多くなった。水を注入することと、地震が起きることが密接に関係していることは確かだった。

 量だけではなく、注入する圧力とも関係があった。圧力は、時期によって自然に落下させたときから最高70気圧の水圧をかけて圧入するなど、いろいろな圧力をかけたが、圧力をかければかけるほど、地震の数が増えた。

 このまま注入を続ければ、被害を生むような大きな地震がやがて起きないとも限らない。このため地元の住民が騒ぎ出し、この廃液処理計画は1965年9月にストップせざるを得なかった。せっかくの厄介者の処理の名案も潰えてしまったのであった。

 地震はどうなっただろう。11月のはじめには、地震はなくなってしまったのであった。

 こうして、合計で60万トンという廃水を注入した「人造地震の実験」は終わった。誰が見ても、水を注入したことと、地震の発生の因果関係は明かであった。

 地震の総数は約700、うち有感地震は75回起きた。震源は井戸から半径10キロの範囲に広がり、震源の深さは10キロから20キロに及んだ。これは井戸の深さよりも数倍も深い。これは井戸からまわりに水がしみ込んでいったためだろうと考えられている。

  では、水を人工的に地下に注入したときに、地下ではなにが起きていたのだろうか。十分正確にわかっているわけではないが、岩の中でひずみがたまっていって地震が起きそうな状態になったとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする、つまり地震を起こしやすくする働きをするらしい。いわば、地震の引き金を引いてしまったのだ。

 つまり、人間が地下に圧入した水や液体が、岩盤の割れ目を伝わって井戸の底よりも深いところにまで達して、その先で地震の引き金を引いたのに違いないと考えられている。

 日本でも例がある。前に話した長野県の松代町では、群発地震が終わったあと、1800メートルの深い井戸を掘って、群発地震とはなんであったのかを研究しようとした。その井戸で各種の地球物理学的な計測をしたときに、水を注入してみたことがある。

 このときも、水を入れたことによって小さな地震が起きたことが確認されている。しかもこのときは、米国の例よりもずっと弱い14気圧という水圧だったのに、地震が起きた。(略)

  米国のネバダ州とアリゾナ州にまたがるフーバーダムは高さ221メートルもある大きなダムだが、1935年に貯水を始めた翌年から地震が増え、1940年にはこのへんでは過去最大になったマグニチュード5の地震が起きた。地震の震源は地下8キロにあった。もちろんダムの底よりはずっと深い深さだ。しかし、これはダムを作ったために起きた地震だと考えられている。

 また、アフリカのローデシアとザンビア(ジンバブエ)の国境にダムを作って1958年からカリバ湖に貯水を始めた。高さが128メートルあるダムで、世界最大の人造湖が出来た。ダム建設前から近くで小さな地震が起きているところではあったが、貯水が始まってから満水になった1963年までに地震が急増し、2000回以上の局地的な地震が起きた。満水になった年には、マグニチュード5.8の地震が起きて被害が出た。松代群発地震での最大の地震よりは大きな地震だ。

 このほかギリシャのクレマスタ・ダムは1965年の貯水開始後に地震が起き始め、4ヶ月後には地震が急増、七ヶ月後にはマグニチュード6の地震が起きて、やはり被害が出た。

 また、旧ソ連のタジキスタンに作られた317メートルの高さがある巨大なヌレクダムでは、完成前に貯水を始めたとたんに近くの地震が増え始め、その後も小さな地震が起き続けている。このダムは世界で最も高いアースフィルダムである。

 そのほか、高さ105メートルの中国広東省にある新豊江ダムでも1959年にダムの貯水が始まったあと地震が増え、1962年にマグニチュード6.1の地震が起きた。この地震では幸いダムは壊れなかったものの、ダムの補強が必要になったほどの被害があった。この地震後も小さな地震は活発に起きていて、地震後10年で地震の数は25万回にも達した。中国ではこのほかのダムでも地震が起きており、いま作られている巨大ダム、三峡ダムでも地震の発生を心配している地震学者も多い。

 これらのダムでの地震は、幸いなことに、大きな被害は生まなかった。しかし、じつはダムを作ったために起きた地震が大きな被害を生んだこともあるのだ。

 1967年にインド西部でマグニチュード6.3の地震が起きた。177人、一説には200人が犠牲になったほか、2300余人が負傷した。この地震は近くにコイナダムという高さ103メートルのダムを造ったことによって引き起こされたものだというのが地震学者の定説になっている。

 ダムで貯水が始まったのは1962年だったが、それ以後、それまでは地震がほとんどなかったところなのに、小さな地震が起き始めた。これらの地震はせいぜいマグニチュード四クラスだったが、ダムとそのすぐ近くの25キロメートル四方の限られた場所だけに起きた。ダムの周囲はもともと地震活動がごく低いところで、100キロメートルで地震が起きているのはここだけだったから、目立った。震源の深さは6キロから8キロメートルだったが、ダムの高さは103メートルだから、ダムの底よりはずっと深いところで地震が起きていたことになる。

 そして貯水が始まってから5年目の1967年になって、まず9月にマグニチュード5を超える地震が2回起き、ついに12月にマグニチュード6.3の地震が起きて大きな被害を生んでしまったのであった。

 その後もマグニチュード5を超える地震が数回起きているが、いずれも、ダムの水位が1週間あたり12メートル以上と急激に上がったときに起きた。

 なお、ここでは貯水開始以来ずっと地震の観測が続けられていて、雨が降ると小さな地震が増えるという関係も見られていた。雨が降ると貯水量が増え、それが地震を増やすのだろうと思われている。

 雨といえば、大西洋のまん中にあるアゾレス諸島では、雨が降ると地震が起きる。(略)

 アゾレス諸島は7つの島からなるが、そのどれもが火山島で、島にある山頂上に登ると、足下に深い火口がぽっかり口を開けていて足がすくむ。ここでは雨が降ると約2日後に、被害は起こさないが人間が感じる程度の地震が起きる。つまり火山のカルデラに雨がしみこんで、その地下水が地震を起こすのである。 (略)

 ダムが地震を起こすのは、ダムに溜められた水が地下にしみこんでいくことと、ダムに溜められた水の重量による影響と、両方が地震を起こすのに関係すると思われている。このため、ダムの高さが高いほどしみ込む水の圧力が高く、また水の重量も大きいだろうから、地震が起きやすいと考えている地震学者は多い。

 廃液の地下投棄やダムのほか、人類の活動が地震を起こした例は世界各地ですでに70ヶ所以上の場所で知られている。

 地球内部の研究をするためや、石油や鉱脈を見つけるために人工地震を起こすことがある。これらの人工地震は火薬を使ったり、圧搾空気を使って起こすのだが、本当の地震を起こすわけではない。(略) 

 しかし、これには(次のような)異説もある。米国カリフォルニアで起きたコアリンガ地震(1983年、マグニチュード6.5)は大油田の下で起きたかなりの地震で、その余震域は油田の広がりとほとんど一致している。原油の汲み出しによって地殻にかかる力が減った分とちょうど同じだけ地震のエネルギーが解放されて地震が起きたという報告もあり、この地震も人造地震ではなかったかと考えている地震学者もいる。(略)

 しかし、これらの誘発地震については、まだ研究が進んでいない面が多い。たとえばヒマラヤ地方では、高さ200メートルを超えるダムをはじめ、ほかのダムでも地震が起きているようには見えない。どこのどういうダムで地震が起きるのかは、まだほとんどわかっていないのである。

 地震は自然にも起きるものだから、起きた地震がダムのせいであったかどうか、議論が分かれている地震もある。たとえば、1993年にインド南部でマグニチュード6.2の地震が起きて、1万人もの死者と3万人もの負傷者を生んだことがある。約10キロ離れたところに出来たダムからしみこんでいった水が起こした地震ではなかったかと考えている地震学者もいる。

 また、死者29名を生んだ1984年の長野県西部地震(マグニチュード6.8)も3年前から貯水を始めていた近くの牧尾ダムが起こしたダム地震ではなかったかという学説もある。また北美濃地震(マグニチュード7.0。死者8名を生んだ)も1年前に貯水を始めた近くの御母衣(みほろ)ダムとの関連を疑っている学者もいる。しかし、議論の決着はついていない。

 その他、ダムが出来てからすぐには地震が起きず、20年近くもたってから比較的大きな地震が起きたエジプトのアスワンにあるハイダムのような例もある。このダムで貯水が始まったのは1964年で、1978年に178メートルの水位に達したあと、1981年11月にマグニチュード5.6の地震が起きたのだった。貯水開始後17年もたってからである。

 エジプトの3000年以上の歴史の中で、このあたりに地震が起きたことはない。たぶん史上初の地震を起こしてしまったのであろう。いずれにせよ、このエジプトのダムの例のように、水を貯め始めてから、いつ、どのような地震が起きるのか、あるいは起きないのかには、まだ謎が多いのである。

 とくに日本のように、もともと地震活動が盛んなところでは、そもそも起きた地震が「自然に」起きたものか、人工的なものかを見分けることがむつかしい。また、政府や電力会社も、この方面の研究を好まない。それがこの方面の研究が進まない理由になっている。しかし、世界の他の国に起きていて、日本だけ起きないと言う理由はあるまい。

 人間が世界各地で行っている開発や生産活動は、これからも知らないあいだに、地震の引き金を引いてしまうかも知れないのである。
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追記:
2004年に起きた新潟中越地震の震央から約20kmしか離れていないところに天然ガス田(南長岡ガス田)があり、地下4,500mのところに高圧の水を注入して岩を破砕していた。

坑井を「刺激」するために、深い井戸を通じて油ガス層に人為的な刺激を与え、坑井近傍の浸透性を改善することにより生産性を高めるために行われているものだ。 地下4,500m付近に分布する浸透性が低い緑色凝灰岩層に対して「水圧破砕法」を使って岩にひび割れを入れ、生産性を8倍も増加することに成功したと言われている。

  新潟中越地震の震源の分布図(東京大学地震研究所)によれば、余震分布の上限は4,000m程度、本震(ここでいう本震は地震断層の「壊れはじめ」で、本震そのものは余震域全体に拡がっていたと地震学では考えられている)の深さは13kmだから、震源に極めて近いところで「作業」をしていたことになる。

 南長岡ガス田は1984年に生産を開始していたが、21世紀になってから 「水圧破砕法」を使い始めていた。
 それだけではない。ここでは、経済産業省の外郭団体である地球環境産業技術研究機構が主体となって、2003年から、新潟県長岡市の地下約1100mに二酸化炭素を圧入する実証実験をやっていた。大量の二酸化炭素を地中に圧入する「実験」が行われていたのである。(略) 

  圧入は2003年7月7日に開始、その年度は20トン/日で、2004年度は40トン/日で圧入した。その後、二酸化炭素供給工場の定期点検・整備や二酸化炭素の供給逼迫期の圧入休止、それに新潟県中越地震による圧入中断(2004.10.23〜12.6)はあったものの、2005年1月に実験を完了した。1日に20〜40t、約1年半かけて、合計10,405トンもの大量の二酸化炭素を地下深部に圧入したことになる。

 圧入された深さは1100mだが、背斜構造になっている、いちばん上部の場所だから、地層としては、ずっと深いところまで連続している地層である。また、圧入した地層は、岩相から大きく5つのゾーンに区分されていたが、そのうちの浸透性が最も良好なZone-2(層厚約12m)を圧入する対象として選んでいた。つまり、圧入した二酸化炭素が、もっとも遠くまで行きやすい層を選んでいたわけだ。(略)

 この実験期日からいえば、実験開始から1年後に新潟中越地震が発生したことになる。この圧入井戸は震源(壊れはじめの地点)から20kmしか離れておらず、地震学的には、ほとんど震源の拡がりの中にある。 (略)

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以上が島村論文の抜粋です。

島村論文は断層説の範疇で展開しておられるために、「岩の中でひずみがたまっていって地震が起きそうな状態になったとき、水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする」 と解説されています。この解説は竹内均先生の解説「31大地震の発生を防ぐ方法」[1256]にある「地下へ水を注入することで、小さい地震を数多くおこせることが発見されたのである。」という解説と基本的には違いがありません。

地震爆発説での警告は地下注入が水素ガスを発生させることによって、水素ガスの爆発という危険性を指摘している点で、定説論に基づく警告とはまったく違う重要性を持っているわけです。

島村論文中からいくつかのテーマを抽出してコメントを書いておきます。

震源の深さは10キロから20キロに及んだ。これは井戸の深さよりも数倍も深い。

これは「水や液体は岩と岩の間の摩擦を小さくして滑りやすくする」という説明からは説得性に欠けるのではないでしょうか。10キロも20キロも先まで注入した水が移動することは考え難いと思います。長岡市深沢で行われたCO2の圧入実験では、水で満たされた帯水層の水を押しやり、先端部分の水を高熱部分に押し出すという危険性のことを指摘しているわけです。

高さ103メートルのダムを造ったことによって引き起こされたものだというのが地震学者の定説になっている。・・・ダムの底よりはずっと深いところで地震が起きていた。

地震学者も認識しておられるようですが、「滑りやすくなる」のなら、なぜダムの底よりも深い場所が滑りやすくなるのか、なぜもっと浅い部分で滑りやすくならないのか、説明が困難ではないでしょうか。

ダムの水位が1週間あたり12メートル以上と急激に上がったときに起きた。

水位変化が激しい時には解離度の変化も激しくなり、水素ガスの発生も激しいはずで、地震爆発説ならば、説明が簡単にできます。定説では、急激な水位変化によってすべりやすくなるという説明が出来ないと思います。

雨が降ると約2日後に、被害は起こさないが人間が感じる程度の地震が起きる。

アゾレス諸島はアトランティス沈没の舞台と考えられている場所ですが、全島に火山が存在することからもわかるように、マグマが地表近くに存在しているはずです。このことが地表に降った雨程度でも地中の解離状態を変化させ、小規模ながらも、水素ガスの爆発を起こしているのではないだろうかと推定できます。

ダムの高さが高いほどしみ込む水の圧力が高く、また水の重量も大きいだろうから、地震が起きやすいと考えている地震学者は多い。

ダムの貯水位が高いということは高水圧で地下水を押し下げますので、地下深部の解離状態を不安定にさせるはずです。定説ではなぜ地震が起こりやすくなるのか明確な説明が困難だと思います。

原油の汲み出しによって地殻にかかる力が減った分とちょうど同じだけ地震のエネルギーが解放されて地震が起きた

くみ出した原油量に匹敵する地震エネルギーとは何を意味するのかよくわかりません。地震爆発説ならば、原油を汲み出すことによって、圧力の減少が生じますから、解離度が局所的に増大し、水素爆発が起こりやすいということが出来ます。

ヒマラヤ地方では、高さ200メートルを超えるダムをはじめ、ほかのダムでも地震が起きているようには見えない。

これも不思議な現象ですが、爆発説で考えると、ヒマラヤ地方には火山が存在しないことからも分かるように、冷却された地殻が厚く、ダムの建設で局所的に水圧を高くしても、解離状態を乱すほどの高熱地帯にまでは影響を与えないことが地震を起こさないのではないかと考えられます。滑りやすさという観点からなら、ヒマラヤ地方でも同じように地震が起こってもおかしくないはずです。

20年近くもたってから比較的大きな地震が起きたエジプトのアスワンにあるハイダムのような例もある。

エジプト地方でも、火山は存在しないので、条件はヒマラヤ地方と同じではないのか、という気がしますが、海洋が近くにあるエジプトの地と、海洋から遠隔の地にあるヒマラヤ地方では、地殻の低温度部分の厚さが違うのだと思います。ヒマラヤではそれが厚く長い年月にわたって水圧が負荷されても、地震現象に関係する高温度の解離層まで影響を与えないのだと考えられます。

以上、島村論文が述べているCO2貯留の危険性と、地震爆発説から帰結する貯留の危険度とはまったく異質のものである ことをご理解願いたいと思います。