新・地震学セミナーからの学び
58 CO2地中貯留計画責任者の安全認識
セミナー[988] [1255]に紹介したCO2地中貯留計画のプロジェクトリーダーが持って居られる安全認識とそれに対する石田研究所長からの返信メールの内容を紹介しておきます。現場の技術者は当然のことですが学識経験者の言を信じて計画を推進しておられますが、科学はまだまだ未知の要素を抱えていることを忘れてはいけないと思います。

プロジェクトリーダー ご指摘の件につきましては、以下の理由(三項目)から正確さを欠く不適切なものと判断致します。

地質学的・地球物理学的状況の全く異なる海外事例からの憶測ではなく、科学的根拠にもとづく適正なご意見や対応をお願い致します。

返信(石田研究所長): 科学的な根拠と言うのは大変重要なことですが、これまでも企業などが社会的責任を追及されてきた事件は、いずれもその時点では科学的に未知であったいわゆる未科学の分野に原因があったのではなかったでしょうか。「当時は分らなかった・・・・」といって・・多くの悲劇の後に謝罪するということが繰り返されてきたように思います。

確かに現時点の既知科学では地震学者が「地震は断層が動いて地震になるのだ」と証言してくれますから、地下に物質を圧入することと地震発生との因果関係が存在しないようにみえます。しかし、将来明らかになる未知科学では因果関係なしとは言い切れないかもしれないと言うことです。そのときに問われる企業の責任まで考慮されているのかどうかです。「予見できなかった・・・」として法的責任は免れたとしても道義的責任まで免ぜられるかどうかはわかりません。多くの市民の難渋生活と悲劇を伴うことですから・・・。

第一項目:新潟県中越地震の震源は二酸化炭素圧入実証試験を行っている岩野原基地から直線距離で約20km離れた深さ約10kmです。一方、二酸化炭素を貯留している帯水層の深さは約1,100mで、帯水層におけるC02の拡がりも圧入口から約100m程度であることを確認しています。また、岩野原基地は、中越地震の余震域からも大きく外れていますので、地震を引き起こしたと考えるのは現実的ではありません。

返信(石田研究所長)

震源と圧入現場が離れていることは認識しておりますが、圧入されたC02に排除されて押し出された水が移動することによって、地下深部で水が熱解離する能力が変化することが問題視されます。地下深部ほど解離させる能力は高いはずですから、そこへ浅い領域にあった水がところてん式に押しやられれば解離ガスを発生する可能性があると考えられます。

第二項目:実証試験では、地下1,100mの帯水層に貯留された超臨界C02の圧力を常時観測しており、圧入開始後において、爆発(爆縮)などによると思われる圧力変動は一切発生していません。また、圧入された超臨界C02と鉱物との化学的反応に関する基礎研究も行っており、そのような事象が発生しないことを確認しています。中越地震は、概ね西北西一東南東方向に最大主応力軸を持つ逆断層型の地震で、断層が上下方向に滑ったことによって発生したものであることが、地震波からの解析で分かっています。

返信(石田研究所長)

C02が直接爆発の原因になるのではなく、ところてん式に地下深部に移動した水から解離する解離ガスの爆発(爆縮)が問題になってきます。したがって測定器による観測領域での爆発(爆縮)による圧力変動が無いのは頷けます。熱解離の現象は鉱物との化学反応とも関係は無いと思います。地震の発生原因が断層の滑りであるというのは通説地震学の知識ですが、別の地震爆発論によれば話は変わってきます。

第三項目:岩野原基地では、微動観測を行っていますが、圧入レート、累計圧入量と微動発生状況とは全く相関が認められません。

返信(石田研究所長)

デンバーでは地下3800mまで直接に廃液を圧入しております。岩野原基地では1100mですから、解離ガスの発生点に影響が出るのに時間差が出ることは十分考えられることではないでしょうか。

学識経験者の審議:本研究開発につきましては、東京大学名誉教授の○○○○先生を委員長とする「二酸化炭素地中貯留技術研究開発研究推進委員会」で学識経験者の委員の先生方から科学的根拠にもとづくご審議を受けて実証試験を推進していることを申し添えます。

返信(石田研究所長)

どのような学識経験者がおられても、未知科学に関しては全員素人ですから、「その時点では学者にも分らなかった」となるでしょうね、上述しましたように、学者の審議によって法的責任は免れたとしても、道義的責任が残る可能性はあります。私が最も危惧しているのは地震の原因に関する知識が間違っている可能性があり、それによって地下深部に安易な人為的工作が行われ、多くの悲劇を生むのではないかということです。以上再考していただければ幸甚に存じます。

               2005年3月      石田地震科学研究所  所長