1203
2006-08-22 (Tue)
映画「日本沈没」の解説から
ある科学雑誌が特集したものですが、「ほころび始めたプレートテクトニクス理論」という小論で卯田先生は以下のように述べておられます。(http://www.ailab7.com/uda.html 参照)
「思いつき(プレート論のこと)が十分な吟味もされずに既成事実となり、検証するデータもほとんどないのに、いつしか定説となる。そして気がつくと、どこまでが観測事実もしくは調査結果で、どこからが単なるアイディアなのか区別ができなくなっている。単純明快な概念が非科学的で醜悪な寓話と化してしまう・・・・。こうしてプレートテクトニクスは、いまやそのモデルとしての有効性に限界がきているように見える。」
こうした卯田先生のような冷静な見解もある反面、依然として寓話が創作され続けているようにしか思えないのが、過日(8月15日)中日新聞に掲載された「日本沈没」の確度と題する記事です。映画「日本沈没」は娯楽作品として楽しんでいただければいいのでしょうが、その確度と題して紹介・解説される科学的研究なるものは、全くの寓話であると考えております。その新聞記事を以下に紹介します。
-------------------------------------------------------------
『日本沈没』の確度
夏休みに話題の映画「日本沈没」。作品中では“メガリス”とよばれる地下の巨大な岩板が沈没の鍵を握っている。実際、地球物理学の研究で、メガリスのようなものが地球の歴史を左右する役割を担っている、と考えられるようになってきた。日本は本当に沈むのか。 (永井 理)
「実際に沈んだ島もあります」。海洋研究開発機構の深尾良夫・地球内部変動研究センター長は話す。
日本の南方、フィリピン海の中央には「九州パラオ海嶺(かいれい)」と呼ばれる海底山脈が南北約三千キロにわたり延びる。「この海嶺も小笠原諸島のような島々だったと考えられる。太平洋プレート(岩板)の沈み込む位置が変わり海底に沈んでしまった」という。
一九八〇年代以降、地震波で地球内部を見る地震波トモグラフィーが確立すると、プレートの動きを左右する「スタグナントスラブ」の存在が明らかになってきた。日本海溝から大陸の下に潜り込んだ硬い太平洋プレートは、深さ六百六十キロ周辺にとどまっている。その大きさは日本海から中国にまで約千キロ以上に及ぶ。沈まずに停滞していることから「スタグナント(よどんだ)スラブ(厚板)」と名付けられた。
また、深さ二千九百キロのマントルの底には、スラブの残骸(ざんがい)らしきものがあるのも分かった。深尾センター長は「スタグナントスラブがある程度たまると、プレートからちぎれてマントルの底へ沈む」と考えている。インドネシアやメキシコなどでも同じ現象が見つかっている。
停滞したスラブの大きさなどから前回の落下は四千−五千年前とみられる。ちょうどこのころ、太平洋プレートの動く方向が北から西北西になったことが知られている。深尾センター長は「プレート北側にぶら下がっていたスタグナントスラブが落下し、プレートに働く力のバランスが変わり移動方向も変化した」と考えている。
スタグナントスラブはなぜたまり、落ちるのか。
深さ六百六十キロは上部マントルと下部マントルの境目だ。この境界より深い部分は岩石の結晶が変わる「相転移」が起きて比重が上がる。プレートのように冷えて硬い岩板は結晶の変化が遅く、六百六十キロですぐに相転移せず比重が小さいため沈めないのではないかという。下部マントルの粘り気が強く、スタグナントスラブを支えている効果も大きいという。
スラブの動きを計算機シミュレーションしている吉岡祥一・九州大助教授は「スタグナントスラブが切れ落ちるところまで模擬するのは工夫がいる。地震観測だけでは、速さなどの時間的な変化が分からない。動きを検証するため重力の時間変化が測定されている」と話す。
落下時期や速度は、現在はまだ分からない。
「日本沈没」を監修した東大地震研究所の山岡耕春教授は「日本が沈没するには、地殻がすくなくとも百キロぐらい動く必要があり、百万年はかかる」と話す。
私たちの生活にすぐには関係なさそうだが、スタグナントスラブがどんな状況で沈み、プレートの動きが変わるのか、これからの大きな研究課題だ。
<メモ>地震波トモグラフィー
地震波が伝わる速度は、冷えて硬い岩石では速く、熱く軟らかい岩石では遅い。このため多くの観測点で、さまざな角度からくる地震波の到達時間を計ると、地中のどこが硬く、どこが軟らかいかを計算して図示できる。エックス線で人体の断面を映像化する医療用CTと同じ原理だ。
--------------------------------------------------------
以上が中日新聞の記事です。
議論のベースにあるのは、地震波トモグラフィーという解析手法で人体内部を見るように地球内部が観察出来ると理解していることでありますが、これに関しては、ニューオフィス11などでも説明してきましたが、解析手法そのものに疑念があります。
トモグラフィーとは2900kmまでのマントル部分が固体であって、かつ玉ネギ状の層構造、しかも深さ方向に一定の割合で速度が増加している、という前提で得られたPREMとかiaspモデルという地震波の伝播速度分布を基にしています。この分布から計算される地震波の到達時間と実測時間との僅かな時間差を最小にするように物理量を変えて繰り返し計算し、最初の速度分布からの誤差を色分けしたものです。
そのPREMなどを求めるのには、インバージョン法というコンピューター解析方法が使用されていますが、マントルが溶融していたり、層構造、しかも深さ方向に一定の割合で速度が増加するような構造と違っていればPREMそのものが成立しません。
繰り返しますが、層構造になっていると仮定した地球内部の物質の物理量(温度・密度など)のもとで地震波の到達を計算すると、観測値と若干のずれが出る・・・そのずれが無くなるように各層の物理量を変化させて再計算を行い、実測値と計算値の差額が最小になるまで繰り返してやってみたら、基本にしたPREMなどからの誤差(それも2〜3パーセントという微小なものです)が写真のような赤と青の分布になったということなのです。
つまりこの方法はマントルが溶融していたり、プリュームのような縦構造になっているのならば、比較する最初のPREMとかが成立しないはずです。
プリュームなどがあるということはマントルが溶融しているはずで、マントルは固体であるという前提が崩れますし、スタグナントスラブのようなものがあれば、深さ方向に層状に伝播速度が変化するという前提も崩れます。数パーセントの僅かな誤差だから問題は無いと考えているのかもしれませんが、そのように僅かの違いしかないスタグナントスラブがどうして落下したりするのか、理解できません。
少なくとも、解析の前提にあるものと違う結果が出てくるわけであって、そうしたものが計算結果に現れたとして、結果を信じるというのはどのような理由によるものでしょうか。私には寓話作りをしている・・・としか思えません。
プリュームとかスタグナントスラブとかが意味のある存在であるのなら、PREMそのものを構築し直さなければいけないのではないでしょうか。
ましてや、固体マントルの内部で、「スタグナントスラブがある程度たまると、プレートからちぎれてマントルの底へ沈む」・・・などと「沈む」という流体力学の概念が登場するのでは、科学的な考察とは言えないと思うのです。
また、「日本が沈没するには、地殻がすくなくとも百キロぐらい動く必要があり、百万年はかかる」
という解説者がこの映画をどのように監修されているのかも疑問に思えます。東大教授が監修しているのならば、ある程度は科学的に立証されているお話なのかとおもったら、百万年かからないと沈没しません・・・では監修って何だろうと思ってしまいます。
以上中日新聞記事への疑問を述べましたが、日本列島や大陸の沈没現象が御伽噺であるといっているわけではありません。違う原理によって、瓜生島が沈んだように、アトランティス大陸やムー大陸なども沈没したのであり、今後そうした大陸規模での沈降・浮上もありえるというのが、新・地震学の述べていることです。
注釈:2008・7月[1464]にて、マントルは熔融しているが、衝撃的震動のS波なら伝播させる、と若干の修正をしています。
|